英検1級二次試験合格に必要な4つのテクニックとは?
2019.01.02
勉強すれば合格するだろう。私はこれまで英検1級についてはそう思ってきました。でも準備するのは面倒だし、勉強する時間もなかなか確保することができなかったので、だらだら先延ばしにしていたのですが、去年8月に受けることを決心し、2018年度第2回検定を受験しました。
今回、初めての受験でしたが、一発合格しました。大阪府の受験者の中では上位1%に入り、二次試験では分野別得点においてほぼ満点となりました。
なぜ私は英検1級二次試験でハイスコアをだすことができたのか。それは、試験官が本当に求めているものが何なのか理解していたからです。
参考書に騙されてはいけない
英検1級を目指している人の多くは、真面目な方だと思います。そして真面目な方というのは、参考書を買って勉強して準備万全の状態でテストに挑むはずです。
私は腰が重いタイプですが、やると決めたことはちゃんとする人間です。私も参考書を買って準備を始めましたが、ここで私は思いまいた。「たぶんほとんどの人は騙されてるだろうな」と。
二次試験の大きな難関は2分間のスピーチです。カードに書いてある5つの質問の中から1つを選び、それに対する答えになるような2分のスピーチを1分で考え、それから2分間話す。
英検1級二次試験対策用の参考書には、問題とその解答例、つまりスピーチの例がたくさん載っています。でもここでまずあなたは騙されていると思います。ネイティブスピーカーでもあんな作文のように書かれたスピーチを1分以内にその場で考えて話すことなんてできません。1級の二次試験を突破できない人は、参考書を鵜呑みにしていることが失敗の要因のひとつになっているのではないでしょうか。
そもそも試験官は何を求めているのか
英検1級の二次試験を合格するには、試験に対して持っているイメージを根本的に変える必要があります。というのも、あれはスピーチではありません。英検は二次試験を「スピーチ」と呼んでいますが、実際のところは「ディベート」です。スピーチは本来、原稿を書いたうえで練習をしてから、本番に挑むものです。
もちろん結婚式や表彰式などのイベントで原稿を用意することなく即興で話すネイティブスピーカーもいます。しかし「即興で意見を述べる」というシチュエーションにより近いのはスピーチよりもディベートです。
私はこのことに早い段階で気づいていました。だから練習も、ストップウォッチを使って即興で意見を言うことだけに集中し、参考書に載っているスピーチのサンプルも、苦手なトピックの論点やエビデンスを参考にするためだけに使いました。
ネットでよく見受ける勉強方法は、用意したトピックにそって英作文を書いて、その原稿を暗記する、という方法ですが、私はこれをお勧めしません。そもそも英作文は読むために書かれた文章です。原稿を暗記してなんとか声に出せたとしても、それは話す側にとっても聞く側にとっても苦痛なものです。
その姿はまるで登場人物のセリフを原作小説のまま、舞台用にアレンジを加えることなく、ステージの上で嫌々ぎこちなく言わされている三流俳優のようです。
テストは手段であって目的ではありません。彼らが試したいのはスピーチを1分以内に作る能力ではありません。あなたが英語を使ってある程度知的な会話ができるかどうか。それを知りたいのです。
想像してみてください。外国人と会話をするときに、原稿を用意する人なんているでしょうか。スピーチ+会話というテスト形式は、外国人と大学レベルもしくはそれ以上の会話をイメージして作られたフォーマットなのです。本当に大事なのはスピーチそのものではなく、リアルタイムで自分の考えを明確に伝えることです。
ここからは、私が本番で使った4つのテクニックを紹介したいと思います。
テクニック1 質問そのものを攻撃する
Will serious journalism be a thing of the past?
私が本番で選んだ質問はこれでした。ちなみに、残りの4つの質問の内容は忘れてしまいましたが、どれも参考書には載っていない質問であったことは間違いありません。私が予想問題として独自に準備していたのは、入試の女子差別問題です。
しかし、その予想も大きく外れました。このように、自分のポジションと論点をあらかじめ整理して覚えておくのにはある程度意味があっても、原稿を丸暗記して試験に挑んでも無意味なのは明白です。
それでは、本題に戻りましょう。Will serious journalism be a thing of the past?という質問自体どこか変だと思いませんか?「シリアスなジャーナリズムは過去のものとなるだろうか?」という質問ですが、「シリアス」とはどういう意味なのでしょうか?何がシリアスなジャーナリズムで、何がシリアスではないジャーナリズムなのでしょうか?ミレニアル世代の人(22歳から37歳)なら、この質問の隠れた意味がすぐにわかるはずです。
ですが、この質問について考えるまえに理解してほしいことがあります。この試験は「英検」という知名度のある組織が作っているからとって、質問そのものに公平性があるとは限らないのです。誰にだってバイアスはあります。それは英検の設問者であろうと同じです。
私はこの質問からすぐに世代的なバイアスを感じました。この設問者が思うシリアスなジャーナリズムは「既存メディア」で、シリアスじゃないジャーナリズムは「ネットメディア」のはずです。もしかすると“シリアスじゃないジャーナリズム”は、朝の情報番組やお昼のワイドショーを指しているのでは?と思う方もいるかもしれません。
でも私には、英検の設問者があれをそもそもジャーナリズムとして認めているようには思えません。とにかく私は、この偏った質問にバカ正直に答えるのではなく、質問自体を論破することに決めて、スピーチをこの主張で始めました。
It depends on what you mean by ‘serious.’ If ‘serious’ means ‘corporate,’ then corporate journalism will be a thing of the past.
あなたがseriousをどういう意味で使っているかに答えはかかっている。もしseriousがcorporate(企業的)を意味しているのなら、企業的ジャーナリズムは過去のものとなるだろう。
Will serious journalism be a thing of the past?という質問は、本来YesかNoで答えないといけない質問です。しかし、こうしてseriousという抽象的なワードをcorporate(企業的)というワードに具体化すれば、二元論の話ではなく、自分が本当にしたい話をできるようになります。
設問の裏にあるバイアスをつくというテクニックは、すべての質問に対して使えるわけではありません。ただ、もしカードに書かれた質問に違和感のある抽象的なワードが含まれていたら、そして時間内にその違和感の理由を特定することができれば、この裏技を使えるでしょう。
テクニック2 筋が通っていれば、フォーマット通りじゃなくてもいい
英検1級二次試験対策の参考書の多くは、イントロで立場を説明し、ボディとなる理由1、理由2を述べ、結論で締めくくる、というスタイルを読者に勧めています。でもこのスタイルに固執しすぎると、「ひとつ目の理由はこれ。その例証はこれ。ふたつ目の理由はこれ。その例証はこれ」と、まるでロボットのように思考しながら話さなければなりません。
二次試験を突破できない方たちの多くは、この制約を意識しすぎているがゆえに、自分が本来持っている力を発揮できていないのではないでしょうか。
しかし、前述のテクニック1を使えば、制約を解くことができます。質問文にある抽象的なワードを具体的なワードに変えることで、設問者が設定したYesかNoの限定的な立場に囚われることなく、自分が本当にしたい話の入り口を自然に作ることが可能になります。
そうすれば、フォーマットを守るために計算しながら話さなくても、ふだん外国人と英会話をするときのように自然な流れで話せるようになります。もちろん何を言っても許されるわけではありませんが、あなたのアーギュメントが論理的であれば、イントロ・ボディ・コンクルージョンのスタイルに忠実でなくても大丈夫なのです。
ここで当日の私のスピーチの内容を紹介したいと思いますが、一字一句正確に覚えているわけではないので、大まかな話の流れをここでアウトラインにしてみたいと思います。
主張
あなたがseriousをどういう意味で使っているかに答えはかかっている。もしseriousがcorporate(企業的)を意味しているのなら、企業的ジャーナリズムは過去のものとなるだろう。
・企業的ジャーナリズム(既存メディア)は衰退する
・新聞なんて誰も買わない
・テレビの影響力も低くなっている
・未来はindependent journalism(独立系メディア)だ
・independent journalismはネットを中心に活動している
・ウェブ、ブログ、動画、SNSなど
・良質のネットメディアは存在するし、彼らはシリアスだ
結論
企業ジャーナリズムは衰退するが、未来はシリアスなネットメディアにある
なにしろ即興で意見を述べたので、ここまできっちりとまとまっていたわけではありません。というのも、私はけっこう長い間話をしたつもりだったので、てっきり時間をオーバーしたと思っていたのですが、タイマー係を見ると、「まだ終わっていない」というジェスチャーをしてくれたので、残りの30秒ぐらいは違う表現を使って何度も同じようなことを話したのを覚えています。
ですから繰り返して言いますが、「スピーチ」という形にこだわりすぎる必要はないのです。試験官に「ああ、この人なら外国人とも対等に議論できるだろうな」と思われるようなアーギュメントを言えばいいのです。大事なのは形よりも中身です。
ランダムな質問があるのは、あなたのアーギュメントがありきたりな証拠
スピーチが終わったら、試験官から3つの質問があります。彼らは、あなたのアーギュメントにある矛盾や穴を遠回しにつくような質問をします。
そもそもスピーチの段階でアーギュメントが非論理的であれば、相手が納得する答えなんて当然言えませんし、あなたのアーギュメントが論理的であったとしても、ここで精神的にひるんでしまえば3つの質問を突破することはできません。はっきり言って英検1級二次試験はディベートなのです。
相手に勝つ気持ちで挑まないと、その場で良い回答を考えつくこともできません。
英検1級の体験談について書かれたブログ記事をいくつか読んで知ったのですが、3つの目の質問ではスピーチに直接関係のない質問をされることがあるようです。でも私の場合は最後の質問もスピーチに対する質問でした。英語で一字一句どう聞かれたかは覚えていませんが、内容的には以下のようなことを聞かれました。
質問1(外国人試験官)
あなたは独立系メディアにもシリアスなものは存在すると言いました。独立系メディアに必要なqualityは“シリアスさ”だけでいいのでしょうか?
質問2(日本人試験官)
メディアが人々や政治家から批判されています。それについてはどう思いますか?
質問3(外国人試験官)
あなたは新聞なんて誰も買わなくなる、これからジャーナリズムはネット中心になると言いました。企業的メディアはどうすれば生き残れると思いますか?
これが何を意味するかわかるでしょうか?彼らは、私のアーギュメントに食いついてきたのです。私もオーパス英語学院では、生徒に対して英語で質問をする立場なのでわかるのですが、相手の意見に全く関係のない質問をするときというのは、それ以上話を発展させることができないときです。
つまりどういうことかと言えば、英検1級二次試験の3つ目の質問がランダムなのは、あなたのアーギュメントがありきたりだと思われているからです。ありきたりな答えだと、ありきたりな質問しかできません。だから試験官は変化球を投げてくるのです。
英検1級のスピーキング問題で嘘はつけない
英検1級一次試験の英作文問題を解くときは、自分の正直な気持ちを優先させるよりも、現実的に考えて書きやすいポジションを選ぶはずです。なんせ少なくとも200語は書かなければなりません。例えば、「将来、紙の辞書はなくなると思いますか?」という質問に対しては、たとえどれだけ紙の辞書が好きでも「はい、なくなると思います」という立場を選ぶほうが、エビデンス的にも語数的にも明らかに簡単です。
英作文であればそうして割り切って書くことができます。しかし、スピーキングで同じことをするのは難易度が高すぎます。確かにスピーキング問題も2級レベルまでなら自分の正直な気持ちを切り離し、論理的思考に徹することもできるかもしれません。でも英検1級二次試験で同じことを、しかも即興でするのは困難です。
だから私のように、多少リスクがあっても自分の思いや考えを通したい人は、設問者のバイアスをついたアーギュメントも展開するべきですし(もしもバイアスを感じる質問であればの話ですが)、そのような方たちには次の2つのテクニックを紹介したいと思います。
テクニック3 あえて同じ表現を繰り返す
英検1級合格を目指しているレベルの方ならご存知だと思いますが、英文は言葉の反復を嫌います。英作文を書くときは、同じ言葉を繰り返して使うのはなるべく避けるべきです。しかし、英語のスピーチやディベートにおける反復は、非常に効果的なテクニックです。同じ単語や表現を繰り返して言えばインパクトを与えることができますし聞き手の記憶にも残ります。
このテクニックはオバマ大統領もよく使います。例えば、この動画を見てください。36分28秒からオバマ大統領はfound that graceという表現を何度も繰り返して使います。
英検1級二次試験では、ひとつ目の質問に対して私はこう答えました。
質問1(外国人試験官)
あなたは独立系メディアにもシリアスなものは存在すると言いました。独立系メディアに必要なqualityは“シリアスさ”だけでいいのでしょうか?
答え
Of course you need other qualities too. You also need to have ethics. You also need to have the ability to distinguish between facts and lies, distinguish between facts and rumors, distinguish between facts and falsehoods.
私はdistinguish betweenという表現を何度も使うことで、“シリアスさ”だけでいいわけではないことを強調しました。distinguish between facts, lies, rumors and falsehoodsと簡潔にまとめてしまうよりも、何度も繰り返すほうが確実に聞き手に伝わります。
ここで反省すべき点がひとつあったとすれば、それは私がqualityとabilityを同義語として使っていたことです。厳密に言えば、abilityは能力を意味する一方で、qualityは個人に元から備わっている能力というニュアンスがあります。ですが、これも反復のインパクトが強かったおかげで試験官もあまり気にならなかったはずです。
ただ、これはあくまでスピーチやディベートの場合にのみ使えるテクニックです。英作文で使うのはお勧めできません。聞くぶんにはいいですが、それを読むとなるとしつこいですし、語数を稼いでいるように見えてしまうので注意してください。
テクニック4 相手の目を見る
大事なのは形よりも中身だ、と私はここで一度書きました。でもだからといって机を見て話していいわけではありません。スピーチやディベートはパフォーマンスです。もしも攻めの姿勢で話すのであれば、相手の目をしっかり見ないといけません。もちろん、友好的な姿勢で話すのであっても、アイコンタクトは必要です。
見ると見ないではあなたのアーギュメントの伝わり方が全然違います。聞き手の目を見れば、あなたの熱意や積極性がより伝わりますが、見なければ消極的にうつります。酷いケースだと、そこから逃げようとしているようにも見えてしまいます。どれだけ説得力のあることを言っても、聞き手の目を見なければ心には響きません。
1級の採点基準に「アティテュード」は含まれていませんが、それまでの級でそのスコアが低かった人は、本番でしっかりアイコンタクトができるように、イメージトレーニングをしておきましょう。
最後に
私が試験会場に行ったとき、周りにいた人の7割が40代から50代前半の方で、20代から30代の方が3割という印象を受けましたが、これからは10代で英検1級を受ける人も増えるはずです。
今は昔に比べて早期から英語を学習する環境が整っています。ですから子供の英語のレベルも上がってきています。より正確に言えば、レベルが全体的に上がったというよりも、素質のある子供の伸びが早く、大きくなったと言えます。
これに合わせて数年前からは、ライティング問題が英検3級にも導入されました。私はそれと同じように、これから5年以内に英検1級二次試験の問題も改正されると予想しています。
というのは、これからもし高校生で1級に合格する人が増えてくれば、スピーキング問題全体の再編が起こるはずからです。実際、5級と4級にも(まだ必須ではありませんが)スピーキングテストが導入されています。
私はこれから英検1級二次試験がよりディベートに近いスタイルになると予想しています。そしてそれに合わせて各級のスピーキングテストも若干難しくなるでしょう。英検5級と4級のスピーキング問題も、選択項目ではなく受験必須となるはずです。
話を1級に戻しますが、今の30代、40代、50代の中には、暗記式で1級合格を目指している方がまだまだいるようです。私は一度、二次試験の100通りの過去問の答案をすべて丸暗記して合格を目指していた人に会ったことがあります。
しかし、そのように実践的な力を育まない詰め込み方式の勉強法も、これから問題の形式自体が変われば無駄になります。したがって、もし私の予想が正しければ、暗記式の人はこれから5年以内に合格しないと英検1級を一生取れなくなる可能性が生じます。
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Category:コラム:オーパス通信,英検合格実績