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コラム:オーパス通信

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ここが変だよダンケルク

2020.08.16

*前半は日記っぽくなってるので、英語に関する記述を早く読みたい方は、「ここが変だよ②字幕」のところまで読み飛ばしてください。

これまで私は月に1回は映画館に足を運んでいました。しかし、コロナのせいで閉館が続いていましたし、6月に営業が再開されても見たいと思う映画がありませんでした。なんせ楽しみにしていた夏の大作映画はすべて公開延期です。代わりに過去作がリバイバル公開されてはいましたが、私は9月まで待つつもりでした。9月18日にはクリストファー・ノーラン監督の最新作「テネット」が公開されます。


今年は劇場で「パラサイト 半地下家族」を最後に見て以来ずっと我慢してきたのだから、このまま9月まで待てるだろうと思っていましたが、やっぱり無理でした。お盆休みに入ってしまうと、「劇場で映画を見たい」という気持ちが抑えきれなくなりました。

でもなにを見ればいいんだろう?調べてみると、映画館のウェブサイトにはクリストファー・ノーラン監督作「ダンケルク」(2017)の文字が!が、4DXでの上映…すこしガッカリしながら近所のマルチプレックスに向かいました。


約半年ぶりの映画館。劇場が暗くなり、ユニバーサル映画の名シーンで構成されたモンタージュが、高揚的なコーラスとともに流れました。約30秒の映像のラストには、Welcome Back to the Big Screenという文言が浮かび上がります。まだコロナ禍が終わったわけではないけれど、この半年間いろいろあったなと思うと、不覚にもうるっとしてしまいました。

そして、ダンケルクが始まります。私にとっては三度目の鑑賞です。一度目は劇場で。二度目はネットフリックスで。今回は初体験となる4D Xでの鑑賞ですが、期待レベルはゼロ。席が揺れるなんてつまらないギミックだと思っていたからです。しかし、私は完全に間違っていました。

冒頭の銃撃シーンが始まった瞬間、まるで銃弾が頭をかすめるように、首に鋭くシュッと何かが吹き付けられました。専用シートの仕掛けです。海で戦艦が爆撃されるシーンになると、(ビショビショにはならない程度に)微粒子のシャワーが降り、空中戦でカメラが傾くと、席も傾き、まるで戦闘機のコックピットにいるような錯覚に陥ります。

ダンケルクはすでに二回鑑賞済みなので、本来ならこれから起こることが思い出せるはずが、まるで記憶喪失の男になったように、先がまったく読めなくなりました。銀幕のスペクタクルを目だけでなく、肌でも体感していたため、脳にプロセスする余裕が残されていなかったのでしょう。

しかし、ダンケルクの世界に引き込まれれば、引き込まれるほど気になることが2つありました。

ここが変だよ① ダンケルクの街並み

今作は、第二次世界大戦中、ナチスドイツ軍によってフランスの港街ダンケルクに追い詰められてしまった33万人のイギリス軍兵士を、無事救出に導いたダイナモ作戦を描いた作品です。つまり、これは実話なのですが、歴史的に不正確な描写が含まれるのは映画として当然のことですし、その点についてはクリストファー・ノーラン監督自身も認めています。

例えば、当時はドイツの戦闘機メーサーシュミットの機体先端部分は、まだ黄色く塗られていなかったそうです。ただそれでは同じ暗緑色であるイギリスの戦闘機スピットファイアとの見分けがつかなくなるため、あえて黄色にしたそうです。また、劇中には英国海軍の駆逐艦が登場しますが、撮影で実際に使われたのはフランスの戦艦だそうです。

私は映画ファンとして史実に対する忠実さというのは、あまり厳しく求めるタイプではありません。ただ、ひとつどうしても納得がいかない点がありました。それは、ダンケルクの無傷な街並みです。

主人公がダンケルクの街を駆け抜けるオープニングと、燃料を失った戦闘機がダンケルクの街をバックに滑空するラストシーンを見ているときに、なんで建物がまったく破壊されていないんだ!と五次元の本棚の奥で叫んでいたのは私だけでしょうか。


例えば、98年製作のスティーブン・スピルバーグ監督作「プライベート・ライアン」もフランスが舞台ですが、街は瓦礫の山と化しています。ただ、私がこれまで見てきた戦争映画はほとんどアメリカ映画です。しかも多くがノルマンディー上陸後を舞台にしています。つまり、ヨーロッパを舞台にしたアメリカの第二次世界大戦ものの殆どは1944年以降が描かれているのです。

しかし、ダイナモ作戦はその4年前の出来事です。ということは、私がイメージしているダンケルクの街並みは、アメリカ映画によって深い階層に植え付けられた思い込みなのだろうか?そう思って調べてみましたが、私が抱いていた違和感は正しかったようです。当時のダンケルクは「爆撃で半分平らになっていた」(half flattened by bombs)とフランスの批評家が指摘しています。

それでも、これはクリストファー・ノーラン監督がおかしたミスではないでしょう。特殊効果で修正する予算は確実にあったはずですが、映像の奇術師としてあえて何もしないという選択をしたはずです。というのも、クリストファー・ノーランのCG嫌いは有名です。

例えば、冒頭のシーンでは、ダンケルクのビーチに集まっている数千人ものイギリス人兵士が映っていますが、遠くに映っているのは兵士の形を模したダンボールだそうです。監督のリアルさに対するこだわりを考えると、オープニングとラストの映像にも極力手を加えたくなかったのだと考えて間違いありません(ラストのワイドショットでダンケルクの街から無数の立ち昇る黒煙はCGでしょうが)。

ところで、今作に登場しなかった「破壊されたダンケルク」が描かれた映画があるのはご存知でしょうか。2007年製作のイギリス映画「つぐない」には、破壊されたダンケルクが5分にも及ぶワンテイクで登場します。


当時描かれた絵画や写真に基づいて再現されたこのシーンは、戦争というカオスのエージェントがもたらす悲惨さが「ダンケルク」よりもひしひしと伝わってきます。ちなみに、「つぐない」を監督したジョー・ライトは、ブチ切れさせたら右に出るものはいないゲイリー・オールドマン主演の「ウィンストン・チャーチル」(2017)も監督しており、ダイナモ作戦も重要なプロット要素となっています。

ここが変だよ② 字幕

私が「ダンケルク」を見ていて気になったことは、もうひとつあります。それは字幕です。ケネス・ブラナー演じるボルトン提督や他のキャラクターが、一部のイギリス兵をHighlandersと呼ぶシーンが何度かあります。このワードは、字幕では「高地隊」と訳されていました。高地 → 高い場所 → 高い場所にいる部隊 → そうか、スナイパー部隊のことか!と勘違いされた方もいるのではないでしょうか。

この「高地隊」という聞き慣れない単語を、戦争映画という文脈から読み取ろうとすれば、一見“高地”というワードが、まるで騎馬隊の“騎兵”や歩兵隊の“歩兵”のような名詞であるかの印象を受けてしまいますが、この単語に軍事的ニュアンスは一切ありません。

確かにhighlandは「高地」を意味します。しかし、Highlandersは高地出身のスコットランド人を指します。このハイランダーたちは戦争中、歴史的な理由でイングランド人とは別にハイランダーたちだけで構成されたHighlander regiment(ハイランダー連隊)として活動していたのです。ちなみに1986年製作、クリストファー・ランバート主演のファンタジーアクション「ハイランダー」も同様です。タイトルは“高地出身のスコットランド人”を意味します。

私ならダンケルクに登場するHighlandersというワードを普通に「スコットランド連隊」と訳しますが、翻訳者は意味を知らずに「高地隊」と訳したのか、それとも9文字の「スコットランド連隊」だと字幕として長すぎるから、あえて場所をとらない3文字のワードに縮めたのか気になるところです。もしも文字数が問題だったのであれば、訳を「高地連隊」にして「高地」の上に「スコットランド」の読み仮名を付けたらいいのにと思いますが。

それでもいいよねノーラン

ダンケルクの街並みと、字幕。このふたつが違っていたら映画鑑賞という夢から覚めることはなかったのに…コマは回り続けたのに…と書いてしまうと、Why so serious?と言われそうですが、個人的に「ダンケルク」はクリストファー・ノーランがこれまで撮ってきた映画の中でもっとも成熟している作品だと思っています(その理由についてはまた別の機会に書こうと思います)。

だからこそ、次回作の「テネット」が楽しみで仕方ありません。テネットはおそらく一度の鑑賞だけで全ては理解できないと思うので、二度目は4D Xで見る予定です。今、世界中の映画館がコロナで苦しんでいます。いま世界の劇場を救えるのは「テネット」の大ヒットしかありません!皆さんも「テネット」を見て劇場を応援してください!怒れ、怒れ、消えゆく光に。

Category:コラム:オーパス通信,映像

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