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You are fake news! 変わりゆく「偽ニュース」の意味と、ネット・メディアの台頭


1月11日、トランプは167日ぶりの記者会見で、CNN の記者を「You are fake news!」(お前は偽ニュースだ!)と非難しました。

事の発端は、選挙期間中から出回っていたある噂を、バズフィードが「ニュース」として取り上げたことです。その噂というのは、トランプがロシアと接触しており、さらに彼のモスクワでの性的スキャンダルの証拠まで握られている、というものでした。

バズフィードはその噂が書かれた調査書類を、信憑性は未確認としながらも11日に公開しました。そして CNN は後を追うように、バズフィードが報道に踏み切ったことをニュースとして扱ったのです。

トランプは事実無根の噂を、メディアが取り上げたことに憤慨しました。次期大統領に批判された CNN のレポーターはすかさず挙手し、質問の機会を要求します。しかし、トランプは彼に発言権を与えません。そうして、拒み続けてもレポーターがしつこく手を挙げ続けるので、「You are fake news!」ととどめの一言を放ったのでした。

メインストリーム・メディアとオルタナティブ・メディアとは?

この事件の重要性を分かるためには、アメリカにおけるオルタナティブ・メディアの台頭を理解しなければなりません。オルタナティブ・メディアはメインストリーム・メディアに対抗している独立メディアのことです。

メインストリーム・メディアというのは、ニューヨーク・タイムスやワシントン・ポストなどの伝統ある新聞、そして ABC、 NBC、CBS などのテレビや CNN、FOX、MSNBC のようなケーブル・チャンネルのことを指します。

保守的な FOX を除けば、メインストリーム・メディアのほとんどはリベラル色に強く、ニューヨーク・タイムスやワシントン・ポストも同様です。

メインストリーム・メディアはどれも巨大な企業です。歴史の長い組織であればあるほど、政府との癒着も当然起こります。また、記者として働くのはリベラルな教育を受けたエリート層が多いため、どれだけ公平な視点で番組を作ったり、記事を書いているつもりでも、リベラルなバイアスが働きます。

保守派から見れば、リベラルのバイアスが作用しているにもかかわらず、メインストリーム・メディアが自分たちの報道内容を、独断で「事実」と決めて伝えていること自体が問題なのです。

昔のオルタナティブ・メディアはラジオ

かつてネットのなかった時代、保守派はラジオを聞いていました。ラジオはテレビに比べて制作費も安く、野心を持った個性的な若者には参入しやすいメディアでした。なかでもラッシュ・リンボーは、保守派トーク・ラジオで大成功をおさめた DJ として有名です。80年代に活動を開始し、今でも現役で活動中です。

リバタリアンの陰謀論者アレックス・ジョーンズも、90年代にラジオでキャリアをスタートさせ、今では動画をふくむ様々な媒体で活躍しています。ジョーンズの凄さは早くからネットに注目し、積極的に活動を続けてきた点にあります。

2000年代にウェブサイトを持っていた番組司会者や発言者はいくらでもいました。しかし、その殆どは更新されることがありません。ジョーンズは初期の段階からライターを雇って、記事をアップし続けました。独自取材の記事もありますが、多くはメインストリーム・メディアによる報道を、陰謀史観のバイアスで解説するというスタイルです。

このスタイルが効果的なのは説得力があるからです。それまでの陰謀論は根拠のないデタラメでしたが、ジョーンズはメインストリーム・メディアが紹介している研究結果や数字を、エビデンスとしてリンク付きで紹介したのです。

例えば、「政府による殺人の数は、戦争による殺人の数よりも大きい」という主張。これが嘘に聞こえても、「これはデタラメじゃない。ハワイ大学のランメル教授による研究結果がニュースで紹介されていた。リンクを送るから見てみろ」と言えば、専門家でないかぎり反論できません。

今でこそこの手法は一般的ですが、2000年代当時としては画期的でした。ジョーンズはそうして積極的に情報発信を行うことで、Infowars.comを月間3800万PVの陰謀ニュース・サイトになるまで育てあげたのです。

さらにジョーンズは、ドキュメンタリー映画を制作してDVDをネット販売したり、“来たる戒厳令”や“来たる大戦争”に向けて備えておくべきサバイバル・グッズやサプリメントをオンライン・ストアで売るなど、多方面に進出しています。

保守ネット・メディアの歴史

また、ネットが現在ほど普及していなかった95年に、保守派アグレゲーション・サイトとして誕生したのが、Drudge Report (ドラッジ・レポート)です。もともとはハリウッドでコンビニの店長をしていたマット・ドラッジ。ゴシップ好きだった彼は、父親にもらったパソコンを使ってウェブサイトとニュースレターを始めるとたちまち人気に火がつき、90年代後半にはスクープを連発するようにもなりました。

ちなみにリベラルのアグレゲーション・サイトとして有名なハフィントン・ポストは、Drudge Report をモデルにして作られているだけでなく、マット・ドラッジの弟子であるアンドリュー・ブライトバートの協力のもとで製作されています。

そしてアンドリュー・ブライトバート自身が、2007年にローンチしたのが、ブライトバート・ニュースです。現在、オルト・ライト(オルタナ右翼)のプラットフォームになっており、およそ100人のスタッフを抱えて有料衛星ラジオも配信しているこの独立メディアのサイトには、メインストリーム・メディアのニュースを保守のバイアスで解説するというスタイルの記事以外にも、独自取材によるスクープも発信しています。中でも有名なのは、当時下院議員だったアンソニー・ウィーナーの性的スキャンダルの暴露です。

2014年には、共和党の下院少数党院内総務エリック・カントーの対抗馬であるティーパーティー候補デイブ・ブラットを支持する草の根運動も、積極的にニュースとして取り上げました。メインストリーム・メディアの誰もがエリック・カントーの勝利を確信するなか、ブライトバートのプッシュもあって最後にはブラットが勝利したのです。予備選挙で下院少数党院内総務が負けるのは、歴史上初めてのことです。

当時はブライトバートの経営執行役会長であり、現在トランプの首席戦略官であるスティーブ・バノンは、すでにこの頃から忘れ去られたミドル・クラスの苦しみや怒りを理解していたのです。

リベラルなバイアスに対抗する保守のバイアス

こうしてネットを拠点にしているオルタナティブ・メディアは、リベラルなバイアスで報道する新聞やテレビのメインストリーム・メディアに対抗して、保守的なバイアスで情報発信しています。(もちろんリベラルなオルタナティブ・メディアも存在しますが、ここでは保守に話を絞ります。)

アメリカの保守系オルタナティブ・メディアの凄さは、ただ単に読者を獲得しているだけでなく、ビジネスとしても、政治勢力としても成功している点にあります。日本にもネットがベースの独立系メディアは勿論ありますが、経済的に成功し、なおかつ運営者と読者が一丸となるほどの結束力を持っているブランドはありません。

日本の方がネトウヨの出現が早かったにもかかわらず、日米でそのような差が生まれるのは、マーケットの大きさや投資規模の違いがある故、仕方のないことかもしれません。しかし一番の違いは、日本の独立メディアに強烈な個性を持ったリーダーや指導者が存在しないことではないでしょうか。

ポリティカル・コレクトネスを無視した発言を繰り返すことで、トランプはリベラルなメインストリーム・メディアによる総攻撃にあいました。しかし、そのプレッシャーに負けないタフな姿が共感を呼び、彼が自由貿易の恩恵を受けている億万長者であるにもかかわらず、ブライトバートやアレックス・ジョーンズを含むオルタナティブ・メディアはトランプを積極的に支持しました。

トランプ大統領は、オルタナティブ・メディアの力なしでは誕生しなかったでしょう。

一方でメインストリーム・メディアがトランプ当選を阻止できなかったのは、彼らが忘れ去られたミドル・クラスの声に耳を傾けなかったこと、そしてトランプに対するリベラルのあからさまな嫌悪感が、彼らの独善的エリート意識を露呈することに繋がったことに起因しています。

また、ヒラリーがトランプに比べて数倍の費用をかけてテレビ広告を出したのにもかかわらず、その効果がなかったのは、テレビにかつてほどの影響力がないことを物語っています。

失敗しても何も学んでいないメインストリーム・メディア

しかし、メインストリーム・メディアは自分たちの怠慢を認めることなく、ネットを責めました。彼らが目をつけたのは、偽ニュース(fake news)です。

アメリカには The Onion という虚構の新聞があります。しかし、これは皮肉を込めて書かれたフィクションであり、読者もジョークだとわかった上で親しまれています。しかし、選挙直後に話題になった fake news というのは、アドセンス目的のためにブロガーが書いたデタラメ記事です。

メインストリーム・メディアは、選挙に関するデタラメ記事が、トランプの支持者獲得に一役買ったと決めつけて、偽ニュースを書くブロガーとそれをフィルターしなかったフェイスブックを非難しました。

その背景にあるのは、エリート層の上から目線です。これまでの政治に対する不満が爆発したゆえの今回の結果を受け入れることなく、「デタラメ記事を信じた教育レベルの低い人がトランプに投票したのだ」と決め付けているのです。

2016年12月4日に起きた発砲事件、いわゆる「ピザ・ゲート」は、それまで誰も知らなかった「偽ニュース」という概念をより浸透させる口実になりました。

ピザ・ゲートとは陰謀説のことです。ウィキリークスが公開した民主党のメールには、不自然なほど「ピザ」という単語が登場するため、ネットである陰謀説が駆け巡りました。実は「ピザ」というのは小児性愛者が使う隠語であり、メールの文中に登場するピザ屋が児童人身売買の拠点になっているのではないかと。アレックス・ジョーンズもこの事件を取り上げました。

しかし、事件は思わぬ方向に向かいます。真相を確かめようとした男性が、問題のピザ屋に乗り込んで発砲したのです。

メインストリーム・メディアの焦り

メインストリーム・メディアはこの二つの出来事を利用して、完全な捏造情報、メインストリーム・メディアによるニュースを偏ったバイアスで解説した情報、市民ジャーナリズムによる情報、この3種類のネット情報をまとめて「偽ニュース」とブランディングするようになりました。

確かにオルタナティブ・メディアにも課題はあります。読者を釣るために、ミスリーディングな題名をつけることは日常茶飯事ですし、ブライトバートにいたっては差別的に聞こえるような過激なタイトルも見受けられます。そのため表面的な部分では、メインストリーム・メディアよりもレベルが低いと思われても仕方がないかもしれません。

しかしその一方で、メインストリーム・メディアが「偽ニュース」という概念を浸透させようとしている姿からは、大企業である彼らが昔のように「何が事実で、何が事実でないか」と情報の流れをコントロールできていないことに対する焦りが伺えます。

そんな中、CNN はトランプにまつわる噂をニュースとして取り上げ、「お前は偽ニュースだ!」と次期大統領に非難されたのです。CNN が自ら口撃材料を与えてしまったのは誰が見ても戦略的ミスです。

「偽ニュース」の新しい意味

このとき「偽ニュース」という言葉の意味は変わりました。それまでメインストリーム・メディアがネットに対して使っていたはずの言葉が、“信用できないリベラルなメインストリーム・メディア”に対して使う言葉になったのです。

あるコメンテーターは、トランプの口撃を Judo move と表現しました。相手の力を利用して勝つことが、まるで「柔道の動き」のようだからです。

しかし、皮肉なのはトランプもホラ吹きとして有名なことです。そもそもトランプは大統領選に出馬する前から、「オバマはアメリカで生まれていない」と主張してきた Birther でした。

トランプはホワイトハウスの西棟にある会見室を、今の場所から別の場所に移すことを考えています。また、遠くからでも質問できるように、スカイプ中継用の席も用意する予定だそうです。古いメディアと新しいメディアの戦いが、post-truth の時代にどう発展していくのか目が離せません。

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