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なぜトランプは人気なのか トランプ旋風は壮大なガス抜きイベント

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「おいおい、クレイジーなレイシストのドナルド・トランプが大統領になるかもしれないなんて、いったいアメリカどうなってんだよ」と思っている方も多いかと思います。

しかし、事態は皆さんが思っているほど悪くありません。

過去にこのコラムではトランプがクレイジーではないこと、そして彼の言動にはパフォーマンスの側面があることを説明しました。今回はアメリカの有権者が彼のどこに魅力を感じているのか解説しようと思います。

トランプの魅力とは?

不動産王であるドナルド・トランプは、Make America Great Again(アメリカを再び偉大にする)というスローガンのもと、過激な言動とパフォーマンスで注目を集め、16人もの候補を破った末に共和党の大統領候補に指名されました。

トランプの支持者はなぜ彼がアメリカを再び偉大にできると信じているのか。それは、国際ビジネスマンとしてこれまで数々の deal(取引)を作ってきたとする彼の主張とイメージを買っているからです。

トランプは集会や演説で「I’m gonna make great deals(俺はすばらしいディールを作る)」と決まって言います。数々の事業を成功に導いた dealmaker(交渉人)としての能力を国際政治の場で発揮することで、海外に流出した雇用を取り戻すと主張しているのです。

ところが実のところ、トランプの事業の多くはアウトソーシングされています。そのためメディアは彼の矛盾を批判しますが、トランプの主張を「アメリカにとって有利な貿易協定を外国と結ぶ」という意味で捉えたら、(自由貿易の時代にそんなことが本当に可能かどうかは別として)公約としては矛盾していないでしょう。

ヒラリーVSトランプは「グローバリズムVSナショナリズム」ではない

アメリカ人の多くは「トランプ=反グローバリスト」と思い込んでいます。最初は私も、イギリスの EU 離脱を支持した彼がてっきり反グローバリズムの立場をとっているのだと思っていました(ちなみに私はトランプを支持しているわけではありません)。

が、そうしてグローバリズムを現在の体制、そしてそれに抵抗するナショナリズムの新勢力がトランプと考えることは間違いです。なぜなら彼はもともと政治家ではありません。ビジネスマンとして物事を考えるがゆえ、政治経済の概念に囚われていないのです。アメリカにとって得になる deal さえ作れたら、どんなシステムであろうと構わないのです。

ここに不思議な構図が浮かび上がります。メディアはトランプの偽善を指摘することで、彼の大統領選出を阻止したいのですが、トランプ支持者はそれを殆ど気にしていないのです。なぜ気にしていないのか?それは、トランプ派の多くが大手メディアに飽き飽きしているからです。

Political Correctness に対するトランプのNO

トランプ人気の一番の理由は、彼が political correctness に断固とした反対姿勢をとっている事にあります。

いまアメリカ社会は、少しでも差別的に聞こえるような発言をすると、たちまちレイシストや女性蔑視者のレッテルをはられてしまう風潮にあります。それを最も強く感じているのは、もはやマイノリティと化しつつある白人です。

とくに大手メディアにおける political correctness は顕著であるため、言いたいことも言えない世の中になっていると危惧し、フラストレーションを感じているアメリカ人は肌の色に関係なく増えています。日本でも同じような問題はありますが、まだまだ移民が少ない日本とはそのプレッシャーの桁が全然違います。




そんなときに登場したのがトランプでした。大統領候補であるにもかかわらず平気で差別的発言をし、報道番組の司会者を罵り、メキシコとの国境に「壁」を作るだけでなく、その費用をメキシコに請求すると言い放ち、次から次へと問題発言を繰り返す。多くの有権者は彼を見ていてスカッとしているのです。

Alt-Right = オルタナ右翼とは?

トランプの登場を大歓迎したのが、Alt-Right という新しい勢力。Alt-Right は Alternative Right の略です。「オルタナ右翼」と呼べばいいのでしょうか。主な活動の舞台はネットなので、アメリカ版ネトウヨと思えばわかりやすいかもしれません。

これまでアメリカの大手メディアはオルタナ右翼の活動を知りながらも、その存在を認めるのは避けてきました。しかし、その状況は8月に一変します。オルタナ右翼のニュースサイトであるBreitbart(ブライトバート)の経営執行役会長であるスティーブ・バノンが、トランプの選挙陣営の最高責任者に任命されたので、大手メディアは彼らの活動を無視できなくなったのです。

そして決定的だったのは、同月にヒラリーがトランプとオルタナ右翼の事実上の合流を演説中に名指しで批判したときです。ついにその名前が大統領候補のスピーチに登場したため、大手メディアは「オルタナ右翼」の名を使わずにはいられなくなってしまいました。

しかし、当のオルタナ右翼はヒラリーの批判に怒るどころか、自分たちの存在が大手メディアを含む「現体制」に認められたことに歓喜しました。

皮肉にも多様なオルタナ右翼

ヒラリーや大手メディアを含む体制側は、オルタナ右翼をレイシスト、女性蔑視者、反ユダヤの白人グループだと決めつけていますが、Bretibart にアップされているAn Establishment Conservative’s Guide To the Alt-Right(体制の保守派のためのオルタナ右翼入門)によると、話はそう単純ではありません。

このガイドを読み、ここで紹介されているサイトや活動を調べたら、大手メディアの指摘通り彼らにはまだ 「統一された思想がない」ことがわかります。しかし、彼らのバックグラウンドは皮肉にも多様です。

一口に「オルタナ右翼」と言っても、白人のユートピアを作るという夢をもつ白人至上主義者から、社会的タブー領域を研究しているアカデミックまでいます。

人種も性的趣向も様々です。たとえば、オルタナ右翼入門を書いたマイロ・ヤノプルス(Milo Yiannopoulos)は、イギリスとユダヤのハーフであり、ゲイでもあります。だからオルタナ右翼はなにもストレート(ノンケ)の白人だけではないのです。

さらに、ただネットで差別的な発言をして troll(荒らし)したり、差別的なミームを拡散して楽しんでいる若者も数多くいます。

つまり筋金入りのレイシストも入れば、ただ political correctness にうんざりするあまり SNS で挑発行為を楽しんでいる人もいるのです。それは、日本の一部のネットユーザーと似ているのではないでしょうか。

というのも、日本のマスコミを「マスゴミ」と揶揄したからといって、その人は自動的にネトウヨでしょうか?ネトウヨじゃなくても、マスコミに対して厳しい意見を持っているネットユーザーはいますし、差別意識がなくても炎上を楽しむ日本人はいるはずです。線引きは難しいですが、いわゆるオルタナ右翼の一部はその微妙なポジションに属しているのです。

また、オルタナ右翼の事実上の広告塔となっているマイロによれば、オルタナ右翼というのは、白人至上主義の思想ではなく西欧文化を守ること、そして古き良きアメリカを守ることが、第一の目的としてあるそうです。誰から守るのかといえば、彼らにとっての過剰なリベラル思想やイスラムです。

注目すべきなのは、マイロが「西欧文化を守ること」を強調していることです。自分を正当化するための論理武装かもしれませんが、オルタナ右翼は白人だけじゃないことを考えると納得です。

トランプ当選後のオルタナ右翼の未来は?

オルタナ右翼の台頭は political correctness の意図せぬ結末だと言えます。はたして彼らの力はこれから大きくなるのでしょうか?

オルタナ右翼は現体制に反対することでは意見が一致していても、その先のビジョンはない、もしくはバラバラです。この統一感の欠落は日本のリベラルを彷彿とさせます。したがって思想的統一が起きないかぎり、オルタナ右翼がこれ以上力を持つことはないと私は予想しています。

しかし、トランプが大統領になれば、オルタナ右翼の思想的統一が起こる可能性がある、と考える方もいるかもしれません。しかし、その意見に私は懐疑的です。なぜならトランプのゴールと、オルタナ右翼のゴールは必ずしも一致していないからです。

確かに political correctness は共通の敵です。とくにトランプにとって political correctness はアメリカの抱える問題を合理的に解決する上での障壁です。しかし、トランプはあくまで交渉人として、アメリカの抱える問題をプラクティカルに解決することだけに興味があります。少なくともマイロが主張する「西欧文化を守る」というオルタナ右翼のミッションとは合致していません。何らかの合理的アジェンダを通すときにオルタナ右翼の力を借りても、トランプが思想的リーダーとして彼らを結束し、導くようなことはないと私は予想しています。

まとめ

トランプ旋風は不況と political correctness に対するストレスがアメリカで爆発していることを物語っています。トランプ支持者は集会に足を運び、SNS でも活動し、不動産王の過激な発言に共感することで、鬱憤をはらしているのです。この盛り上がり方は、壮大なガス抜きイベントだと言えるでしょう。

仮にトランプ大統領が誕生しても、あくまでトランプ支持者のごく一部にすぎないオルタナ右翼の人たちが、「これから俺たちがアメリカを動かすんだ!」という勘違いさえしなければ、すなわちマイノリティとしての自覚を維持してくれたら、アメリカの未来は暗くないと思います。オルタナ右翼の知名度が上がったからといって、アメリカがこれからナチス・ドイツのようになることは絶対にありません。

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