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広島にきたオバマと彼の秘密兵器ベン・ローズ

オバマが広島に来る。しかもスピーチもするらしい。しかし謝罪するつもりはない。そう聞いたとき、私は「一体オバマは広島にきて何を語るのか?」と思いました。

オバマはスピーチが上手です。しかし、そんな彼でも今回のハードルは高かったでしょう。アメリカ主導で「核のない世界を作ろう」というメッセージをみんなにsell(売る)しないといけない。ところがスピーチ原稿を書くアメリカ人の側からすれば、守らなければない大きな制約があります。それは、自国による原爆投下を謝罪してはならないことです。

見方によっては矛盾を抱えているメッセージ。なのに、それをどうやって世界に伝えるのだろう?と私は純粋にアーギュメント(議論)やスピーチの観点から、困惑と期待が入り混じった不思議な気分でスピーチの映像を見ました。


スピーチ全文はこちら。

オバマが何をしているのかわかった瞬間、まるでスポーツ選手の絶妙なプレイを見るような感じで、私は「ああ、そうきたか!」と思いました。

オバマは「人類の技術進歩やテクノロジーは社会を助けるだけでなく、武器にもなり得ることで人類を破滅に導くこともできる」という主張の延長線上に、「核兵器」というキーワードを持ってくることによって、日米の戦いでもあった第二次世界大戦というリアルなイメージから世界の目を遠ざけ、なおかつ、アーギュメントを「人類・発展・武器」という普遍的でスケールの大きいシンプルな話としてフレームしたのです。

そしてアメリカ大統領として広島に来る目的も「謝罪」ではなく、「死者の追悼」。しかも「核兵器の恐ろしさを想像するために、ここに来るのだ」というロジックです。

これらを、アメリカが原爆を投下した事実に一切触れることなく、広島と長崎の惨事を「道徳的な目覚め」となる出来事と形容することで、「核のない世界を作ろう」というアジェンダにふたたび世界の注目を集めようとしたこのスピーチは、ある意味曲芸だと思います。AP通信もこのスピーチを“carefully choreographed display”(緻密に演出された展示)と表現しています。

オバマの秘密兵器ベン・ローズ

こうして細部まで計算し尽くされたスピーチ原稿。これを誰が書いたのだろう?と私は気になったので調べてみました。




スピーチを書いたのは、若干38歳のベン・ローズという側近です。彼の肩書きは、Deputy National Security Advisor for Strategic Communications(国家安全保障戦略通信副補佐官)。ローズはスピーチライターとして原稿を書くだけでなく、まるでオバマのマネージャーのように海外出張をプランし、コミュニケーション戦略を立てるという役職を担っています。つまり、大統領の思いを美しい言葉に変えるだけでなく、オバマ外交を根本から形成するのが彼の仕事なのです。


ローズのインタヴュー映像

そんなローズの経歴は異色ですが、オバマ・スピーチの秘密としては納得です。スピーチライターになるまで小説家を目指していた彼は、なんとクリエイティブ・ライティングのMFA(作家志望版のMBA)取得者。が、ニューヨークで9/11のテロを目撃して以来、文学ではなく政治の道を目指すようになったそうです。

それにしても、やはりもともと作家志望だけあって感情移入が得意なのでしょうか、ローズはオバマの考えていることなら何でもわかるらしく、そのため本人からの信頼も厚く、二人の関係は以心伝心レベルに達しているのだとか。

まるで映画のような話ですが、フィクション作家がホワイトハウスで何をしているんだ?という批判は米国内で勿論あります。また、目的達成のためにはメディアにむけてミスリーディングな情報も流すローズの手法は、見方によっては巧みな情報操作や印象操作です。一部で「ほらふき」と揶揄されるのも仕方ありません。

広島スピーチの日本での評価

ところかわって日本では、オバマの広島スピーチは大方支持されているのではないでしょうか。ネットでも「感動した」や「泣いた」など好意的な書き込みをたくさん見ました。ただ、私の周りの日本人の方にスピーチの感想を聞いても、自分の考えを持って内容を理解している人は殆どいません。そして決まって耳にするのが「いや、広島に来てもらっただけで嬉しいんだよ」という反応です。

ネットには、オバマの広島スピーチは教科書に載るのではないか、と予想している人もいるようですが、私は反対です。大学でクリティカルに考えるのなら賛成です。しかし「よくわからないけど、なんか良かった」という印象が一人歩きしているような気がしてならない私からすれば、中学や高校でこのスピーチを教材に使い、広島の平和公園で被爆者と抱き合うオバマの写真を見せても、まだまだディスカッションの少ない日本の教育では「よくわからないけど、なんか良かった」という印象を中高生に植え付けるだけで終わってしまうのではないでしょうか。

まとめ

さて、いま話題のドナルド・トランプは、扇動的な発言が目立つ危険な人物です。もしも彼が「恐怖」の売り方をわかっている大統領候補であれば、オバマは「感動」の売り方をわかっている大統領だと言えます。しかも彼のスピーチ原稿のたたき台を書き、最終仕上げをするのは、小説家になるためのトレーニングを受けた言葉のプロ。

私はオバマのインタビューを何度も見たり聞いたりしているので、彼がオモテウラの少ない素晴らしい人物だとは信じてはいますが、もはや政治的武器の域に達している彼のスピーチを100%鵜呑みにするのはいかがなものかと思います。

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Category:コラム:オーパス通信,政治・文化