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映画批評「ジェイソン・ボーン」


2007年にシリーズ3作目の「ボーン・オルティメイタム」を宣伝していたマット・デイモンが、トーク番組の司会者に「また続編を作ると思いますか?」と聞かれたとき、彼はこう言いました。”Pual (the director) said we could call it The Bourne Redundancy.”

Redundancy の言葉の意味がわかれば、マット・デイモンのジョークも理解できたと思います。しかしその説明をする前に、まずはこれまでのボーン・シリーズのタイトルをおさらいしましょう。



  1. The Bourne Identity (2002)
  2. The Bourne Supremacy (2004)
  3. The Bourne Ultimatum (2007)
  4. The Bourne Legacy (2012)

ボーン・シリーズは、記憶を失った暗殺者ジェイソン・ボーンが自分のアイデンティティを探るという話ですが、注目して頂きたいのが「ボーン」という名前です。

Bourne の発音は「生まれる」を意味する Born と同じ発音です。つまりシリーズ1作目のタイトルは「ボーンのアイデンティティ」であると同時に、「生まれもってのアイデンティティ」という意味にも取れます。

Supremacy は「優位」や「支配権」を意味する堅い言葉です。たとえば、air supremacy は「制空権」を意味します。ボーン・スプレマシーは、「ボーンの優位性」、「ボーンの支配権」という感じでしょうか。

Ultimatum は「最後通牒」を意味します。日本史に詳しい方ならお分かりだと思いますが、ハル・ノートも ultimatum です。ボーン・アルティメイタムは「ボーンの最後通牒」ということです。

また、ボーンの登場しない番外編 Bourne Legacy は、「ボーンの遺産」、「ボーンが残したもの」という意味になります。

ボーン・シリーズの魅力とは?

「記憶喪失もの」の映画は沢山あります。しかし、このシリーズが他の映画とは一線を画すのは、ブッシュ時代を象徴するスマートなアクション映画になっているところにあります。

ボーン・シリーズは、スイス、ロシア、ニューヨークなど寒い場所が舞台になっているので、映像的には冷戦のような雰囲気を醸し出している一方、911テロ以後の米対テロ政策や、CIA・NSA による監視社会の台頭や隠密作戦(black ops)がサブテキストになっています。

アクション・シーンも当時としては斬新

シリーズ1作目が公開された2002年、ハリウッドはまだカンフー・ブームの真っ只中でした。その2年前に公開された中国の武侠映画「グリーン・デスティニー」はアメリカで異例の大ヒットを記録し、キアヌ・リーブス主演の「マトリックス」シリーズも大成功を収めています。

このときアクション映画のジャンルには大きな変化が訪れていました。それまでアクション映画の主演俳優といえば、アーノルド・シュワルツェネッガーやシルベスター・スタローンなど、マッチョ系の俳優でした。

しかし、カンフー・ブームを機に、アクション俳優じゃなくてもアクション映画が成り立つことにハリウッドは気付き始めたのです。

なぜならキアヌ・リーブスやトム・クルーズのような標準体型の俳優であっても、トレーニングさえして、上手に撮影して、上手に編集すれば、格闘シーン満載の大ヒット映画になることが証明されたからです。

革新的な撮影スタイル

「ボーン・アイデンティティー」はカンフー・ブームの流れを受け継いでいる映画ですが、このシリーズのイノベーションはアクションの撮り方にあります。

会話のシーンも格闘シーンも、ドキュメンタリータッチで撮影され、しかもカットが素早いため、とてもリアルな印象がするのです。すなわち SF 映画である「マトリックス」とは真逆のアプローチです。

もはやこの映像スタイルは今では当たり前になってしまいましたが、もしボーン・シリーズが存在していなかったら、ダニエル・クレイグ版ジェームス・ボンドもリーアム・ニーソンの Taken シリーズも生まれていなかったでしょう。

9年ぶりのボーンの評価は?

はたして9年ぶりのボーンはどうだったのか。

「ジェイソン・ボーン」の冒頭シーンは圧巻です。3作目に登場したロンドンのウォータールー駅で工作員を撹乱するシーンや、モロッコのタンジェでの追跡シーンよりも数倍パワーアップしています。ギリシャの緊縮政策に反対するデモの中、火炎瓶も飛び交う道でバイク・チェースが行われます。

この混沌としたアクションを、難なく演出する監督ポール・グリーングラスには脱帽です。また、ラスベガスで繰り広げられるカーアクションも、過去のシーンに負けていません。

ボーンらしくないストーリー展開

しかし、肝心のストーリー展開が遅いのがとても残念でした。ボーン・シリーズの魅力は、ジョン・パウエルの緊張感漂うスコアに合わせて、ストーリーがものすごいスピードで進む点にあります。しかし、今回はペースが明らかに遅かったように思います。

ストーリーに問題があったのには幾つか理由があります。まずは脚本家トニー・ギルロイの不在です。過去4作の脚本を手がけたギルロイとマット・デイモンの不仲は有名ですが、そのためか今回脚本を手がけたのは、監督ポール・グリーングラス自身(!)と編集者のクリストファー・ラウズ。

しかも一時は、主演のマット・デイモンも脚本執筆に参加するとの噂も流れました(ちなみにデイモンは「グッド・ウィル・ハンティング」でアカデミー賞脚本賞を獲得済みです)。

ボーン・シリーズの楽しみの一つは、登場人物が実はボーンに監視されていたことにハッと気づいたときのリアクションを見ることです。その定番シーンが、今作で登場しないわけではないのですが、過去作に比べるとサプライズ感に欠けます。

いま思えば、これはトニー・ギルロイの脚本があってこそ、成り立ったシーンだったのかもしれません。

ブッシュ時代から大きく変わった今

また、現代社会がブッシュ政権の時代から大きく変わったことも、ストーリー展開が遅い理由として挙げられます。

人々が日常的にグーグルや SNS を使う現在、監視社会は当たり前になっています。昔のように “未知なる恐怖” と感じる人達は減っているのではないでしょうか。

製作陣はこの新しい時代をストーリーに反映させるために、グーグルのような会社を登場させています。しかし、その要素はボーンの世界にうまく紡ぎ込まれていなかった気がしました。映画後半の舞台がラスベガスではなく、シリコン・バレーやサンフランシスコだったなら、もっとしっくりきたかもしれません。

物足りない格闘シーン

また、ヴァンサン・カッセル演じる悪役との格闘シーンがいまいちだったのも残念です。このキャラクターの年齢はおそらく50代だと思います。したがって派手な格闘ができないのは、ストーリーの設定を考慮すると仕方ないのですが、ボーン・ファンとしては残念でした。

そして一番納得できなかったのが、ジュリア・スタイルス演じるニッキー・パーソンの扱いです。ニッキーは全シリーズに登場していますが、今作の冒頭では彼女らしくない行動を取るのに違和感を覚えました。

まとめ

ボーン・シリーズは3作目の「オルティメイタム」で終わるべきでした。ところが今作のエンディングを見れば、ボーンの旅がこれからも続くのは一目瞭然です。

Redundant とは、「冗長な」「重複する」「不必要な」「余分の」「過剰の」という意味です。「ジェイソン・ボーン」はまさに The Bourne Redundancy でした。

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Category:エッセイ,コラム:オーパス通信