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スティーブ・バノン監督作のドキュ映画「The Undefeated」を見てみた

トランプ政権の主席戦略官スティーブ・バノンは元海軍将校、元ゴールドマン・サックス勤務、そして元映画監督という異色の経歴の持ち主。

バノンが作った映画はたびたびネット・メディアにも取り上げられており、こき下ろされているので、本当にそれほど酷いのかどうか、自分の目で確かめてみることにしました。

私が今回鑑賞したのは2011年制作の「The Undefeated」。監督脚本スティーブ・バノンです。

この映画は元アラスカ州知事であり、2008年共和党副大統領候補にもなったサラ・ペイリンについてのドキュメンタリー。題名のThe Undefeatedは「無敗」や「無敗の者」を意味します。

この作品は三幕構成になっています。第一幕では、アラスカ州で6番目に大きな町であるワシラで、町長となったサラ・ペイリンの活躍が描かれており、第二幕ではアラスカ州知事選に勝ち、民主党と手を組み石油産業と戦います。そして第三幕では副大統領候補になり全国的注目を集めますが、メインストリーム・メディアに潰されてしまいます。それでも、彼女の奮闘は結果的にティーパーティー運動への道を開いた、というのがこの映画のメッセージです。

「The Undefeated」には、スティーブ・バノンによって撮影されたペイリンのインタビュー映像はありません。監督として彼女の感情や心理には一切興味がないバノンは、いかにしてペイリンが政治家として勝ち続けたのかを丁寧に描きます。オリジナル・インタビューの代わりに登場するのは、サラ・ペイリン本人によって朗読された自伝オーディオブックの音声と当時のニュース映像、そして戦いを共にしたペイリン政権のメンバーたちのインタビュー映像です。ブライトバート・ニュースを立ち上げたアンドリュー・ブライトバートなどの保守派コメンテーターも登場します。

正直なところ、この映画は映像作品として洗練されていません。所々に登場する聖書などの引用もアマチュア感の漂うテロップになっています。マイケル・ムーアのようなエンターテイメント性や、ヴェルナー・ヘルツォーグのような主題との知的な距離感もありません。イメージ映像としてストック・フッテージがふんだんに使われているのは予算がなかったからでしょうか。

それでもバノン監督の無骨な演出に慣れてきたら、映画に入り込むことができます。なぜならサラ・ペイリンは政治家として結果を残しているからです。町長としてワシラのインフラを整えて経済を活性化し、州知事のときには政治家と石油産業の癒着スキャンダルに対して、石油利益に25%の課税という措置をとります。

その結果、アラスカ州民は2008年に一人当たり1200ドルのリベートを受け取っています。またアラスカにはアラスカ永久基金があるので、州民には更に2069ドルが同年に支払われています。つまりアラスカに住んでいるだけで一人当たり3269ドルが手に入ったのです。(出典

そうしてペイリンはアラスカ州知事として支持率80%を獲得しました。また、2008年の共和党副大統領候補に選ばれてからは、大統領候補ジョン・マケインの支持率アップにも貢献しました。まるで機械のように話す政治家と違った、自然体のお母さん的キャラクターが多くの保守層の心を掴んだのです。

「The Undefeated」を見ると、ティーパーティー運動が始まる前にアラスカでポピュリストが登場していたことがわかります。さらに石油産業に戦いを挑み、民主党と協力してアラスカ州民に富を分配したのが、男性ではなく女性であるのも特筆すべき点です。しかも美しく、結婚していて、子供もいて、世襲政治家でもない。そんなペイリンは全米の保守派の女性に希望を与えました。スティーブ・バノンは、ペイリンの登場によって目覚めた女性たちが後のティーパーティー運動の原動力になったと主張しているのです。

この知られざる歴史を理解すると、サラ・ペイリンが道を開き、サブプライム・ローン問題やリーマン・ショックという経済危機によって爆発したポピュリズム運動の波に、たまたま運よく乗ったのがドナルド・トランプだったことがわかります。そしてバノンはこの運動を続けるために、トランプを利用しているのだと考えることもできます。

現にバノンはトランプの選挙マネージャーになる以前、つまりブライトバート・ニュースを通してトランプを応援していた頃、「我々にとって(トランプは)鈍器のような物だ。(中略)彼が本当にわかっているのかどうかわからないが」とコメントしています(「鈍器」という比喩は、正確さに欠け、的が絞られていないことを意味します)。

去年の夏、選挙運動マネージャーのポール・マナフォートにテレプロンプターの使用を勧められてから失言が更に増え、支持率も下がっていたトランプ。そんな彼を窮地から救い、勝利へと導いたのがバノンでしたが、それが可能だったのには2つの理由があります。まず、トランプを無理にコントロールしようとせず、自然体で選挙運動をさせたこと。そしてポピュリズム運動の支持ベースを熟知していたからこそ、バノンはトランプのキャンペーンに的確さを出すことに成功したのです。

話をペイリンに戻しましょう。ペイリンがリベラルなメインストリーム・メディアの総攻撃にあう様子はトランプと重なります。確かにペイリンもトランプも勉強不足なのは明らかです。しかし、実績があるにもかかわらず、彼女の垢抜けない感じに執拗につけ込んだメインストリーム・メディアの姿からは、今となっては悪意が伺えます。

というのも、私もトランプ旋風を理解するまで、米メインストリーム・メディアの酷さに気づかなかった人間の一人でした。昔はアメリカの保守がなぜメディアに対していつも怒っていたのか全然分かりませんでしたが、こうしてトランプという強烈なキャラクターが登場することで、保守じゃない人の目にもメディアの偽善ははっきり映るようになったと思います。

ペイリンが副大統領候補になった頃、私はアメリカに住んでいました。朝のニュースでペイリンの写真が公開されたとき、「綺麗だな」と思ったのを今でも覚えています。しかし、本人のインタビューが公開されてからは、メディアやコメディアンによって笑い者にされていた記憶しかありません。ペイリンのプロフィールを調べようとも思わなかった当時の自分を振り返ると、いかに情報弱者だったのか、そしていかにテレビの印象操作にひっかかっていたのかがわかります。

重要なのはペイリンのポピュリズムが正しいかどうかではありません。リベラルなメインストリーム・メディアがバイアスを持っているだけでなく、明確な意図を持って偏向報道していることが問題なのです。しかも「The Undefeated」が映画批評アグレゲーション・サイト「ロッテン・トマト」で 0% であるのは異常です。いかに米メディアが偏っているかがわかります。映画批評家の誰一人としてこの映画を認めていないのですから。この映画は去年の大統領選を理解してから見ることをお勧めします。政治とメディアの関係を理解する上で勉強になる一作だと思います。

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Category:コラム:オーパス通信,政治・文化