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Gloves Off : 首席戦略官スティーブ・バノンとは誰か?

スティーブ・バノン 2011年に行われたフロリダでのスピーチ

第二回大統領候補討論会の前日に、トランプのわいせつ発言の録音テープが公開されたとき、誰もが大統領選の勝敗がついたと思いました。しかし、勝負はそこで終わりませんでした。ディベート当日、ヒラリーの夫であり元大統領であるビル・クリントンのレイプ被害者 (だとされる女性たち)のインタビューが Breitbart News で公開されたのです。

さらにトランプはディベートの直前、レイプ被害者たちと一緒に記者会見も開き、討論会場にも招待しました。そして自身の女性蔑視発言をヒラリーに追求されると、ビル・クリントンのレイプ疑惑を蒸し返すことで応戦したのです。すると全世界が注目するなか、討論会を生中継していたカメラは、会場席にいる被害者たちに向けられました。

トランプ陣営のブレイン:スティーブ・バノン

こうしてクリントン夫婦を、品性のかけらもないトランプのレベルまで引きずり下ろすことで絶体絶命のピンチから救ったのが、トランプ陣営のブレインであり、Breitbart News の元経営執行役会長スティーブ・バノンです。バノンは本当のところ、彼女たちをトランプ側の家族席に座らせたかったそうですが、主催者にその案は却下されたそうです。

三回目のディベート終了後も、トランプがなお劣勢だと把握していたスティーブ・バノンは、さらなる奇策に打って出ました。投票日まで残り数週間で、これ以上トランプ支持者を増やすことができないのなら、ヒラリー支持者の数を少なくさせよう、という戦略に出たのです。

そうしてトランプ陣営は、ヒラリーに投票する気を失くすようなネット広告を展開しました。たとえば、一部の黒人が “super predators”(スーパー性犯罪者)であることを示唆してしまった、ヒラリーの1996年の失言  これを題材にした広告を、黒人投票者に対してターゲティングしたのです。

このように勝つためなら手段を選ばないのが、スティーブ・バノンです。そんな彼が8月にトランプの選挙陣営の最高責任者に任命されたとき、ある記者はgloves offと表現しました。

Gloves are offというのは、ボクサーがグローブを外すこと。すなわち素手での殴り合いです。お互いの気持ちやルールを無視した醜い戦いを意味します。

そんな武闘派として有名なスティーブ・バノンとは何者なのでしょうか。



競争の激しい世界を渡り歩いてきたバノン

1953年に生まれ、バージニア州のアイリッシュ・カソリック系労働階級で育ったバノン。彼は7年間海軍に所属し、除隊後はハーバード・ビジネス・スクールの MBA を取得。そしてゴールドマン・サックスの M&A 部門で勤務。投資家として起業してからは、大ヒット・コメディ番組「サインフェルド」の権利を得て大成功。さらにはハリウッドに進出し、映画プロデューサー、政治ドキュメンタリー監督として活躍。2012年には、保守サイト Breitbart News の経営執行役会長にまで上り詰めるという経歴の持ち主です。現在62歳。

このように軍隊、銀行業、メディアなど競争の激しい世界を渡り歩いてきたのが、スティーブ・バノンです。彼のキャリアからは、凄まじい競争心が伺えます。また、高い競争心に比例するのが切迫感ですが、これは彼の政治観や世界観に表れています。

スティーブ・バノンの世界観とは?

2014年にバチカン市国に向けて行ったスカイプ中継のスピーチで、バノンは3つの危機感について語っています。西欧世界の脱宗教化に対する危機感、イスラムに対する危機感、資本主義に対する危機感です。

バノンは、第一次世界大戦と第二次世界大戦で連合国が勝ったのは、アメリカやイギリスやフランスが、クリスチャンだったからだと訴えます。この当時を彼は、資本主義が正しく機能した例として挙げています。

しかし、資本主義でどれだけ富を生み出すことができても、そのシステムが正しく使われていない現在、つまり適切な投資や富の分配が行われていない今、国は危機的状況に陥っているとバノンは言います。

だから彼は、富を独占しているウォール・ストリートのエリート、また、リーマンショック後に彼らを断罪せず、グルになっているワシントン DC のエリート政治家たちを批判します。この層がアメリカのミドル・クラスをないがしろにしているのだと。

このようにスティーブ・バノンが他のどの政治家よりも、どの大手メディアよりも、アメリカで忘れさられていたミドル・クラスと彼らの怒りを理解していたことが、今回の選挙でトランプを勝利に導けた要因の一つだと言えます。

バノンは本当にレイシストなのか?

しかし、そうしてブッシュ家とクリントン家を葬り去ったトランプとバノンは当然、エリート層のメディアと政治家から総攻撃にあっています。

とくにバノンは、オルタナ右翼のプラットフォームと化しているサイト Breibart News を運営していたこともあって、反ユダヤ主義者や白人至上主義者のレッテルを貼られていますが、はたして本当にそうなのでしょうか?

バノンが反ユダヤ主義者であることの根拠となっているのは、元妻の証言です。彼女によれば、バノンは「文句ばかりのガキ」を育てるユダヤ人の多い、アーチャー女学校に娘を送りたくないと発言したようです。ちなみにバノン本人はこの疑惑を否定しています。

また、Braitbart News には過激なタイトルのついた記事が数多くあるため、その責任者であったバノンも差別的だと思われています。たとえば問題になったのが、「Bill Kristol: Republican Spoiler, Renegade Jew」という記事です。

アメリカの政治コメンテーターでユダヤ系のビル・クリストルを、renegade Jew(裏切ったユダヤ人)と形容したことが問題になりましたが、実のところこの記事の筆者は David Horowitz というユダヤ人なのです。

さらにバノンは、ユダヤ人とハーフでありゲイでもあるマイロ・ヤノプルスや、インド系イギリス人のラヒーム・カサームを Breitbart News の記者としてリクルートしています。従って、バノンをレイシストと決めつけることには疑問が残ります。

また、過去にこのコラムで説明したように、一口にオルタナ右翼といっても、ネットの炎上を楽しんでいるだけの若者から、本当の差別主義者まで様々なタイプが存在するため、全員を全員白人至上主義者とは呼べません。当然、トランプ支持者をすべてレイシストだと決めつけるのも間違いです。

非常に興味深いのが、バノンが2014年のスピーチで保守的な政治活動をする上での難点を述べていることです。

With all the baggage that those groups bring — and trust me, a lot of them bring a lot of baggage, both ethnically and racially — but we think that will all be worked through with time.出典

「あのようなグループはお荷物を抱えて来る。信じてくれ、彼らの多くはたくさんのお荷物を抱えて来る。民族的にも人種的にも両方のね。でも時間がたてば全て解決されると思うんだ」

つまりバノンは、保守的な政治活動を展開すれば、自然とレイシストや白人至上主義者を引きつけてしまうと言っているのです。だからもともとは保守サイトだった Braitbart News にも、問題を抱えるファンが不本意にも付いてしまったと見ることができます。

スティーブ・バノンはビジネスマンであり “プラグマティックな資本主義者” であるため、オルタナ右翼からのトラフィックをマネタイズし、なおかつトランプ支持者として彼らを動員することで、選挙に勝ったと考えることもできます。

結局のところ、真実は誰にもわかりません。ただ、このようにバノンがレイシストではない証拠があるのにも関わらず、偏向報道しか行われないのには違和感が残ります。

テレビ離れの進むアメリカ

これには政治的アウトサイダーに対するエリート層の焦りがあるのでしょう。というのも今回の選挙で浮き彫りになったのは、アメリカの大手メディアがトランプ旋風をまったく理解していなかっただけにとどまりません。世界的な新聞離れと同様に起きているテレビの失墜です。

アメリカ庶民の中には、見下したような態度で話すリベラル系のニュースアンカーやコメンテーターに飽き飽きしている人たちが増えています。また、アメリカでは主流のケーブル・テレビを持てない家庭も増加しているため、ネットの力が大きくなるのは自然の流れです。

今回の選挙でヒラリーは、テレビ広告に総額2億3700万ドルを注ぎ込んだ一方で、トランプは今年9月までに4000万ドルしかテレビ広告に費やしませんでした。また、選挙日までの残り7週間、ヒラリーは1億4320万ドルをテレビ広告に投入しましたが、トランプはその間680万ドルしかかけずにみごと大統領選に勝利したのです。

今回の結果を受け、大手ネットワークのエリートたちは、もはや自分たちが今までのような影響力を持っていないことを悟り、パニック状態になっているのです。しかも部外者であるバノンにホワイトハウスを奪われたことで、プライドも傷つけられたはずです。

首席戦略官スティーブ・バノン

誰もが不可能だと思った“トランプ大統領”。彼を誕生させたスティーブ・バノンが、首席戦略官に任命されたのは当然の結果でしょう。

前述のように、バノンは勝つためならどんな汚い手でも使いますし、ネットの力も理解しています。必要となれば、クリントン家のスキャンダル疑惑を掘り起こしたように、「文春砲」ならぬ「トランプ砲」を打つこともあるでしょう。

日本の政治家には気の毒ですが、重要な対米交渉を目前にスキャンダル問題、あるいはメディアの印象操作で、失職する官僚や閣僚が出てくる可能性は無きにしも非ずです。

そもそも permanent political class(永遠なる政治階級=世襲政治家)を敵視しているバノンが、安倍首相が岸信介の孫だと知っているとすれば、すでに印象は悪いはずです。

2016年はスマップ解散危機、ベッキーの不倫、清原元投手の薬物スキャンダルで幕を開けた波乱の年でしたが、トランプ政権の始まる2017年は、さらに混沌とした年になりそうな予感です。

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